VRホラーノベル『夕鬼 零』インタビュー!平成初期、大人になっていく少年たちを描く【TGS2019】
  • VRホラーノベル『夕鬼 零』インタビュー!平成初期、大人になっていく少年たちを描く【TGS2019】
  • 2019/09/19
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26万人の来場者が訪れた東京ゲームショウ2019。ビッグタイトルからインディーゲームまで様々なタイトルが展示されていました。その中からGame*Spark編集部ではVRホラーゲーム『夕鬼 零』の開発元にインタビューを実施。設立から3年目を迎えたトライコアがいかにしてVRホラーゲームに取り組んだのか、ニンテンドースイッチ向けリリースを控えるトライコア代表由比建氏(以下、由比氏)にお話を伺いました。




――今日はよろしくお願いします。まずは、トライコア設立の経緯を教えてください。

由比氏トライコアは福岡のゲーム会社で、コンシューマーでのゲーム開発を経験したメンバーで独立して作りました。VRの受託開発などを手掛けていて、過去にはトヨタやタニタのVRプロジェクトにも関わりました。自社開発も行っていて、社是は「つらくなく好きなことをして幸せになるゲーム会社」です。

――「つらくなく」ということは、過去につらいことがあったということでしょうか?

由比氏ゲーム業界は命を削って開発し過ぎじゃないか?という疑問があったんですよね。ゲームを好きで作っているのはわかるけど、それにしても限度があるし、命を削らないと開発が回らないというのはおかしいんじゃないかと思っていました。「だって納期が……」「だってクライアントが……」「だってそうしないと回らないから……」という場面に何度も遭遇して、「これは違うだろう」と思いました。クライアントはこれがやりたい。僕たちもやりたい。だから一緒にやろう!というような開発がしたいという思いで、トライコアを設立しました。

――ゲーム開発に熱中すると寝食を忘れて熱中すると聞きますが、それを当たり前に受け入れるのは違う、ということですね。会社を設立したのはなぜなのでしょう?フリーランスになる道もあったかと思うのですが。

由比氏実は、最初は絶対に会社にはしないと思っていました。当初は、独立したメンバーでゲーム開発費を貯めてゲームを作ろう、これがゲームを好きに作っていく道だ、と思ってスタートしたのです。だけど、お金を管理するのは難しい。そして、貯めたお金が減っていくのは苦しい。心が荒む。なんでお金がないのにこんなことやってるんだろう……など、いろいろな声が上がったのです。やりたいからスタートしたはずが、「なぜこんなことをやっているのか」という状態になってしまったんですよね。

――その失敗を経験したのが、『夕鬼 零』を開発したメンバー達なのでしょうか。

由比氏そうです。こういうことも起きるかもしれないと想定はしていたのですが、予想以上に早く破綻してしまったんですね。失敗の理由を考えてみると、自分たちが考えた理想の方法は一番苦しい道だったということがわかったんですね。そこで、みんなで貯めたお金を代表の僕が管理して、必要に応じてメンバーに払い出そうということになったんですね。そこで、「あれ?これって会社じゃないの?」と気付いて、会社を設立する運びになりました。なので対外的には社長になっていますが、僕は資金管理をする訳で、いわば貯金箱なんです。

――社長が貯金箱というのは初めて聞きました(笑)。たしかに実質的には会社に近いですね。創業してから何年が経ちますか。

由比氏現在3年目ですね。会社になると、社会的な道義や責任もありますし、社長として振る舞う必要もあります。そこで、会社を設立した経験のある先輩に相談して「なぜ会社にしたのか」を見つめ直しました。なぜ僕は貯金箱になったんだろう?と考えていった末、「ゲームは作りたいけど苦しみたくはないから」という答えに至りました。苦しまずにゲームを作る、だけでは夢物語にも思えますが、実際は失敗の果てに見つけ出した答えなんです。僕は昔、家の中のものを全て売り払って、主食がもやしになったりしたこともありましたが(笑)。


――お、おぉ……今回の東京ゲームショウ出展まで大変な道のりがあったと思うのですが、今は苦しまずにゲームを開発できているのでしょうか?

由比氏結果的には、苦しんでます(笑)。でも、今の苦しみは「次回作を楽に作るために道を切り拓いている苦しみ」で、お金が減る苦しさとは少し違うのかなと思います。トライコア設立から、「3年間はメンバー全員で開発資金を貯めよう!メンバーに給与を払いながら、自分たちのゲーム作りができる期間を半年間は確保しよう!」と考えて動いていました。そして、そのときの計画通りに2020年1月から開発を始める目処が立ちました。でも、僕は別の課題に気付いたんですよ。

――ま、また新たな課題が?

由比氏半年のうち、企画、プロトタイプ、デバッグにそれぞれ1か月確保して、合計3か月で開発する……って、これで本当に面白いゲーム作れるの?と考えたんです。広報宣伝やマーケティングが、半年の中に入りきらないんです。とは言え開発期間を1年にしようとすると、その開発費を貯めるのに6年もかかるわけです。

――6年……長いですね。

由比氏半年で開発できて、パブリッシングやマーケティングもできるようにするにはどうしたら……と考えた末にできたのが『夕鬼 零』です。実は、『夕鬼 零』はデザイナーとプランナーとプログラマーがそれぞれ1人月で作っていて、「この『夕鬼 零』の続編を出しますよ」という宣伝のためのゲームなんです。

メンバーにシナリオライターがいてVR開発の経験もあるのだから、ノベルゲームが適していると思いまして、企画の段階で「VR空間上で本を読む」というコンセプトが生まれました。ただ本を読むだけではフックが弱いので、VR要素を入れて小学生の視点になったり、恐怖のイベントがあったり……と練っていきました。オリジナルテーマソングを入れたり、ナレーションに声優を起用したり、ドローンを使って写真を撮影したり、小学校に許可をもらって校内の撮影もしたり。英語と中国語のローカライズもしましたね。

――半年の中で様々な取り組みをされていたのですね。

由比氏グラフィックについても、ノベルゲームの少ない場面のクオリティを細部までしっかり作ろうと考えました。あの校舎は実はアセットなんです(以下の画像参照)。


……え、どのあたりですか?

由比氏あの教室は元はアセットなんです。モバイル用のアセットですね。これをどこまでリッチにできるか?ということで、コンシューマー開発経験のあるメンバーが全力で魔改造しました。テクスチャの描き直しやアセットの追加、ポストプロセスを作りこんだり、カーテンも動かしたり。テクスチャの描き込みが重要ですね。元のアセットにSubstance Painterを使って描き込んで描き込んで、ハイエンドでの使用にも耐え得るようにしています。


――まさに魔改造……そうやって作りこんだ教室に、例の得体の知れない存在がやってくるわけですね。

由比氏デバッグ中に自分たちもビビるくらいですから(笑)。ストーリーとしては少年の成長を描いたものなんですが、体験版のアレが怖すぎて、伝えきれていないのはちょっと反省です。


――『夕鬼 零』の舞台になる小学校についても詳しくお聞かせください。なぜ小学校を選んだのでしょう。

由比氏「自分たちが共感できるもの」を出してみようと思ったんです。メンバーで話し合ってみると、「小学校のころが一番楽しかった」という意見が多くて。開発メンバーが30代ばかりだったので、時代背景も1990年代後半にしました。その頃に流行ったことや事件をリストアップして、地域ごとの偏りも調べていきました。海外から見ても、90年代後半の日本はあまり取り上げられていないんですね。90年代後半は、技術は進化し始めているけど、街並みや人は昭和のままというアンバランスな世界になっていて、不思議な時代だと思います。『夕鬼』は「平成初期」と「夕方」を根幹のテーマにしています。

――フリーのホラーゲームは中高生にも人気ですし、幅広いファンがいますね。『夕鬼 零』では「平成初期」をどのように表現されたのでしょうか。

由比氏「平成初期」に小学生だった僕らが怖いと思った存在に、「変質者」というのがあります。作中には、「おはようおじさん」とか「かさおばさん」など、小学生が怖がる不可解な存在として「変質者」が多く出てきます。

――「おはようおじさん」?

由比氏朝の登校時間の時、小学生の僕らに向かって「おはようございます!!!」って全力で挨拶してくるおじさんがいたんです。小学生の頃、僕は神奈川にいて、他のメンバーは福岡にいたのですが「そういう人がいた!」となぜか話が一致したんです。デリケートなテーマなんですけど、平成初期は「変質者」という存在が大きく報道されるようになった時期でもあります。


――本作で物語を読む小学生は何年生なのでしょう?

由比氏お話の主人公は高学年ですが、読んでいる人が何年生なのかは読みながら探ってみてください。小学校高学年くらいになると、急に世界が広がって不安になる経験があると思うんです。「大人を信じられない」という、誰にでもあるような時期を乗り越えていく物語になっています。

――誰もが共感する、小学校高学年の時代が描かれていくのですね。SteamではVR対応とされていますが、ニンテンドースイッチではどうなるのでしょう?

由比氏Steam版はOculus Rift/Windows Mixed Reality/HTC VIVEをサポートしていますが、ニンテンドースイッチではジャイロ操作に対応しているので、VR機器を持っていない人も楽しめると思います。ぜひ、ニンテンドースイッチライトと一緒に楽しんでほしいですね。

――今日はありがとうございました。




紆余曲折と苦労の連続の中で、「命を削らないゲーム開発」を目指したトライコアのメンバーたち。平成初期の夕暮れの不気味さと恐ろしさを描き、あの頃の校舎へとユーザーを誘う『夕鬼 零』はSteamで発売中。ニンテンドースイッチ版は年内発売予定です。
《HATA》
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