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Production I.GとNetflixが4K HDRの手描きアニメに挑んでいる。今年2月に発表された取り組みの最新状況が、9月6日に都内で開催された「NETFLIX HOUSE: TOKYO 2019」と題したイベントで明らかにされた。
 発表された5つのセッションの最後に「4K HDR手描きアニメが拓く新たなテクノロジーの開発」が設けられた。Netflix側からはクリエイティブ・テクノロジーエンジニア宮川遥氏、制作側からは監督・演出を務めた齋藤瑛氏が登壇した。作品のタイトル「Sol Levante」も明かされて、さらに制作の様子を紹介する5分弱のショートドキュメンタリーもYouTubeにて公開した。一挙情報公開で、プロジェクトが順調に進んでいるようだ。

4Kと言えば、新しい技術、これからの技術と思われがちだ。しかしすでに4K専門放送チャンネルがスタートし、Netflixでも4K対応のプレミアムプランを提供する。家電量販店に行けば、店頭に並ぶ多くの大型テレビの多くは4K対応だ。4Kの普及は確実に始まっている。
 4K HDRの「4K」は画像解像度を指し、現状のテレビ放送の解像度4倍を実現する。「HDR」はハイダイナミックレンジの略称で、輝度・明るさの幅を飛躍的に広げた。つまり4K HDRでは、これまでより明るくきめ細かな画面を実現する。
 ところが同じ地上波放送でも、アニメは他の地上波放送より解像度の低い1280×720のSDRを使用することが多い。これと比較すると4Kはこれまでの8倍もの解像度になる。「4K HDR」が実現すればとてつもないアニメ映像が見られるはずだ。

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「Sol Levante」は、日本初の4K HDRで制作する手描きアニメの試みである。宮川氏は、Netflixでは4K HDRの実写番組は多いが、アニメでの4K HDRはこれまで実現できていなかったと語る。それは紙と鉛筆で描いた絵を4K HDRの解像度にあげることが困難なためだ。高い解像度に合わせた原画のクオリティが求められ、アニメーターの負担も増す。今回のプロジェクトは、そこに挑戦する。

それでも齋藤氏は、手描きアニメの4K HDRに大きな意味があると考えており、手描きだからこそ生み出せることがあると話す。またSDRで諦めていた表現が、4K HDR であれば実現できるといい、SDRでは表現できないエメラルドグリーンの色をだすことが可能になるといった具体的な例も紹介した。クリエイターの意図を確実に伝えることで、魅力的なアニメを作れるというわけだ。
また画面の美しさ、映像の美しさを活かした新世代のアニメーションづくりは、日本のアニメの表現の幅を広げられるとも語られた。

齋藤氏はデジタルアニメーションの黎明期より、主にProduction I.Gの作品で仕事をし、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」「イノセンス」「ガルム・ウォーズ」などに参加している。
 しかし2004年の「イノセンス」以降は、映像表現の可能性に閉塞を感じていたという。それは圧倒的な映像で高みに立ってしまったからかもしれない。
 新しい可能性を探るなかで、4K、8Kの研究を始めた。そこでもう1回、新しい可能性が来ると思ったのだという。齋藤氏、同じ制作チームの作画技術監督の江面久氏らは、かなり前から4K、8Kを研究し、取り組んでいた。
 今回はNetflixとProduction I.Gが、齋藤氏、江面氏らが長年温めてきたプロジェクトをピックアップしたとの印象だ。両氏の取り組みに、ようやく時代が追いついたとも言える。齋藤氏は、Netflixと協業することで技術をさらに広げていくことができると意欲的だ。

新しい試みだけに、「Sol Levante」の制作は一筋縄とはいかなかったようだ。それでも技術的には4K HDRは可能なようだ。むしろ制作工程に必要とされるタブレットで原画を描くデジタル作画の対応にアニメーターが抵抗を持つことが多く、制作スタッフ側の課題が少なくないという。「Sol Levante」の経験をより一般化し、4K HDRの手描きアニメが今後も継続して制作できるのか、制作技術を業界に波及させることができるのかが重要だ。今回の取り組みは、さらなる挑戦・発展をするための貴重な第一歩なのだろう。(数土直志)

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